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京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)20号 判決

京都市上京区上立売千本東入二丁目ヶ東西町六二九

原告

新谷保久

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八

被告

上京税務署長

横田光夫

右指定代理人

笠原嘉人

柳原孟

三好正幸

堀内和幸

山口忠芳

鈴木慶昭

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五七年一二月二四日付でした原告の昭和五四年分、昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  原告の主張

1  原告は、被告に対し、本件係争年分の確定申告をした。

被告は、昭和五七年一二月二四日付で原告に対し本件更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件各処分という)をした。

原告は、本件各処分に対し、異議申立及び審査請求をした。

以上の経過と内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかし、

(一) 被告の部下職員は、原告に対する税務調査にあたり、第三者の立会を認めず、調査の理由を開示せず、違法な調査に基づき本件各処分をした。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の所得金額を過大に認定した。

よつて、原告は被告に対し、本件各処分の取消を求める。

二  被告の認否

原告主張1の事実は認め、同2の事実は争う。

三  被告の主張

1  被告の部下職員は、昭和五七年九月二七日、原告の肩書住所地所在の事業所に臨場し、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めた。しかし、原告は、「民商に任せており書類を預けているので民商で見せてもらえ」、「民商事務局員の立会いを認めないのであれば調査に応じない」と言つて調査に応じなかつた。

その為、被告はやむなく反面調査のうえ推計課税の方法で本件各処分をしたのであつて、本件各処分に手続的瑕疵はない。

2  原告の本件係争年分の所得金額について

(一) 被告が把握した原告の売上金額は別表3記載のとおりである。

(二) 同業者の選定と同業者所得率の算定は、次のとおりである。

被告は、原告の事業所の所在地である上京税務署長及び隣接の中京、右京及び左京税務署に所得税確定申告をしている者の内から、本件係争年分を通じて次の条件に該当する青色申告納税者を抽出したところ、別表4記載のとおりの申告事例を得た。

イ 印刷業を営んでいること。

ロ 他の事業を兼業していないこと。

ハ 年間を通じ継続して事業を営んでいること。

ニ 収入金額七八〇万円から三四〇〇万円未満であること(すなわち、原告の収入金額の最も少ない昭和五五年分の約五〇%から最も多い昭和五六年年分の約二〇〇%の範囲内)。

ホ 京都市上京区、北区、中京区、右京区、西京区及び左京区、長岡京市、向日市並びに京都府乙訓郡に事業所を有すること。

ヘ 不服申立又は訴訟係属中でないこと。

右同業者は、業種、業態、事業場所、規模等において原告と類似性があり、これらの同業者は青色申告納税者であるから、その数値は正確である。従つて、右同業者から同業者所得率を算定し、これを原告に適用することには合理性がある。

(三) 特別経費は、別表5記載のとおりである。

(四) 以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得は別表2記載のとおりとなる。

3  よつて、本件各処分は、適法である。

四  原告の認否

1  被告の部下職員が第三者の立会を認めなかつたこと前記のとおりである。

2  被告主張の売上金額は認める。

(二) 推計の合理性は争う。原告は、本件係争年の間、印刷ブローカー(取次店)を営んでいたもので、印刷業を営んでいたものではない。

(三) 被告主張の特別経費は認める。

五  証拠

本件記録中の書証、証人等目録に記載のとおり。

理由

一  原告が本件係争年分の確定申告をしたこと、被告が本件各処分をしたこと、原告が異議申立及び審査請求をしたこと、以上の経過と内容が別表1記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件各処分と推計課税の必要性

原告は、被告の部下職員が、第三者の立会を認めず、調査の理由を開示しないなど違法な調査をなしたから、本件各処分が違法であると主張する。

しかし、原告は、被告の部下職員が原告の事業所に臨場し、本件係争年分の所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等の提示と事業内容の説明を求めたのに、原告が「民商に任せており書類を預けているので民商で見せてもらえ」「民商事務局員の立会いを認めないのであれば調査に応じない」と言つて調査に応じなかつたとの被告主張事実を明らかに争わない。

そして、このように原告が帳簿資料に基づいてその事業内容を説明せず、調査に協力しなかつたからには、被告が反面調査のうえ推計課税の方法で本件各処分をするも止むを得ないものがあつたと言うべきである。

税務調査にあたり第三者の立会いを認めるかどうかは担当職員の裁量に委ねられているところ、本件において第三者の立会いを拒んだことが調査の違法事由になると認めるべき事実の主張立証はなく、また具体的調査理由を開示しなかつたとしても、だからといつて調査が違法になるものでもない。

三  推計の合理性と所得金額の認定

1  売上金額が別表3記載のとおりであること、当事者間に争いがない。

2  同業者所得率について、

証人鈴木慶昭の証言により真正に成立したと認める乙五号証ないし九号証並びに同証言によれば、被告が、被告主張のとおりの基準で別表4記載のとおり同業者の申告事例を抽出したことが認められる。

3  原告は、印刷ブローカー(取次店)を営んでいたもので、印刷業を営んでいたものではないと主張するので、この点について検討する。

(一)  原告は、その本人尋問において、昭和五二年ころまでは文選、植字、機械関係等の職人もいて印刷加工業をしていたが、本件係争の昭和五四ないし五六年ころには、自宅に印刷機械(手出し平台という機械)を置いてはいたものの、職人も高齢となつて死亡したり病気になつて居らず、原告が倒産したこともあつて、印刷加工業を止め、印刷業と称しながら、専ら、印刷の注文を取つて印刷加工業者に持込む、いわゆる印刷ブローカーをしていたもので、写真製版やタイプ印刷を始めたのは昭和五七年からであると供述する。

(二)  しかし、成立に争いがない乙一号証ないし三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める乙一一号証ないし一九号証、同本人尋問の結果(後記惜信しない部分を除く)によれば、原告は、印刷を依頼していた印刷加工業者の詳細を明らかにせず、また、本件係争年当時、自宅の一部(一五坪程)が工場となつていて、活版の印刷機械を四台位設置しており、昭和五五年一月ころには新しい機械を代金約五〇〇万円にて購入していること、紙、インキ等の他、フイルム、樹脂版、活字等の製版材料、ウエス(機械を拭く布)、シエルオイルビクトリア(機械油)部品等の機械用材及びアブラトーレ(手を洗う石)等を多数仕入れていたことの他、本件係争各年分の確定申告書の職業欄に自ら印刷業と記載していること、別表3記載の受注先のうち、須原一郎、伊世秀美、高見秀三郎、川勝建蔵、太田信三、中川将博、村上将彦、源田紙業株式会社、株式会社南商事、文字康之及び有限会社京都名刺はいわゆる印刷ブローカーであることが認められる。

(三)  右認定事実によれば、原告は本件係争年当時、印刷業を営んでいたものと認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は惜信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

4  原告は、その本人尋問において、「帳面は付けていました・・・売上帳、領収書、全て残つています」と供述しながら、当裁判所にも、これを提出はしない。

5  そうすると、別表4記載の同業者は、その選定基準に照らし、業種、事業場所、規模などが原告の事業と類似していると認められ、かつ、無作為に抽出されたもので、青色申告納税者でその数値は正確であると認められるから、これらの同業者から同業者所得率を算定し、これを原告に適用することには合理性があるとしなければならない。

6  特別経費については当事者間に争いがない。

7  以上によれば、原告の本件係争年分の事業所得金額が別表2記載のとおりとなること計数上明らかであり、本件各処分は右に認定した事業所得金額の範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はない。

四  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 田中恭介 裁判官 榎戸道也)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

総所得金額の計算

〈省略〉

別表3

係争各年分の売上金額

〈省略〉

別表4

昭和54年分の同業者所得率の算定について

〈省略〉

昭和55年分の同業者所得率の算定について

〈省略〉

昭和56年分の同業者所得率の算定について

〈省略〉

別表5

特別経費(利子割引料)

〈省略〉

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